化学療法室に通院する患者さんは、どうしてもネガティブな精神状態に陥りやすく、点滴を見ただけで不安な気持ちを抱く患者さんや、奇抜な抗がん剤の色に恐怖を感じる患者さんも少なくない。
我々がスーパーに並ぶ食材の生産者の顔を見て安心することがあるように、その抗がん剤の調製者の顔が見え、コミュニケーションをとることができれば、点滴することに対する不安を少しでも払拭できるのではないかと考えた。「嫌な」イメージのある点滴カバーを「ハッピー」で「安心」なイメージに変えられるよう、薬剤師と患者さんとのコミュニケーションツールとして点滴カバーをデザインし、課題の解決を図る。
名方勇介 Yusuke Nakata 医師
村岡智恵 Chia Muraoka 看護師
横溝れい Rei Yokomizo 医療機器メーカー事務職
廣瀬るな Runa Hirose 薬学部 5年・東京デザインプレックス研究所 グラフィック/DTP専攻卒業
外来化学療法は、奏効率や生存期間の延長などの化学療法の効果を落とさずに、患者の良好なQOLを維持することが目標とされている1。
日常生活を継続しながら治療が受けられるため仕事や趣味を継続したり、家族と共に過ごすといった利点もあるが、外来では主体的な自己管理や対処が求められるため治療に伴う不安2, 3, 4や副作用による苦痛や生活への影響3, 4, 5, 6, 7、治療にかかる時間や経済的負担2, 3, 5, 6, 7が報告されており、いまだに療養上の課題となっている。
外来化学療法室に来院された患者に対しては医師の診察や看護師・薬剤師による副作用の聴取・確認などといったやりとりはあるが、実際には医療従事者側に治療のために必要な最低限の会話しかできていないことも多い。その中でも薬剤師は医師や看護師より患者と接する機会が少ないといった声もある。
そこで、患者に対する心理的不安の解消と医療従事者(特に点滴を調剤する薬剤師)とのコミュニケーションツールとなり得る点滴カバーを考案する。
薬剤師は医者や看護師と比べ、直接患者さんと関わる機会が少ない。どんな人が調製した薬なのかを知ることができ、その人からのメッセージが書かれているような点滴カバーがついていれば、薬に対する恐怖心が和らぎ、安心して点滴の時間を過ごすことができるのではないかと考えた。カバーデザインの例としては、上記のように写真と(アバターのようなアイコン)メッセージが一緒になって、一人一人デザインが違うようなイメージとなっている。これにより、薬剤に関する副作用を聞くことができるなど、患者さんの思いを引き出すきっかけとなり、患者さんと薬剤師の両者にハッピーを届けるような効果を期待する。おもて面には個人のイメージアイコンや写真を載せ、メッセージ欄を記載できるスペースを設ける。
うら面は半透明を利用して点滴の残量確認等ができるようにしておく。
外来化学療法に通院される患者は治療に伴う不安や副作用による苦痛、治療にかかる時間への負担を感じていることが多い。今回、私たちが提案する点滴カバーにより、患者の心情の変化や医療従事者(特に薬を調剤する薬剤師)とのコミュニケーションの一助になると考える。実際には化学療法室の規模により在中する薬剤師の人数も違い、メッセージを書き続けることが業務的負担となる可能性はあり、さらに使用状況や場面を検討していく必要がある。展開としては点滴を販売する製薬会社などと協力し、まずは自施設から検証を行っていきたい。