Service

スクールカウンセラーのブランディング #まだ知らないでしょ、みんなの味方。

スクールカウンセラーのブランディング #まだ知らないでしょ、みんなの味方。

ABSTRACT

ストレスを抱える中高生が増加している。心理的・社会的なストレスから自己肯定感の低下に繋がり、メンタルヘルスの不調、体の不調、うつ病発症に連鎖するといった課題が社会問題として懸念されている。学生のストレスマネジメントに対する意識を高めるための手段として、スクールカウンセラー(以下「SC」)の利用率を高めることは有用であろう。 自己肯定感が低下しがちな学生が、SCを身近で伴走してくれる存在と感じられる様に、SCに対するイメージを「相談者」から「応援者」へ転換するための「スクールカウンセラーのリブランディング」を提案する。「カウンセラー=応援者」を学生に理解・共感してもらうために、SCのタグライン「#まだ知らないでしょ、みんなの味方。」をキャッチコピーとしたコミュニケーション設計を考案した。SCの認知度を高め親近感を高めるために、上記タグを付記したメッセージ性のあるポスターやトイレの鏡を活用したCheer Messageを、いわゆる「SNS映え」する様なデザインで作成し校内に配置し、生徒発信の普及を期待したい。さらに、カウンセリング室への行動喚起を促すために、室内にインタラクティブウォールを設置し、自らの小さな目標を宣言する場としても利用できるようにする.2021年度中に群馬県内の中高学校にてプロトタイピングを企画し、当プロジェクトの実用性を検討し,その後他校への活動の普及を図る。メンタルヘルスの不調が懸念される中、SCを身近に感じることで、ストレスの軽減、さらには生徒が大人になった際にも健康的な生活を送れるようになることを期待する。

AUTHORS

吉良明海里 Akari Kira ぐんま国際アカデミー高等部3年
土井賢治 Kenji Doi 麻生総合病院 救急総合診療科/横浜市立みなと赤十字病院 救急科
豊田麻未 Asami Toyoda マーケティングマネージャー兼ジュニアキャピタリスト

INTRODUCTION

日本の高校生のメンタルヘルスの不調は、米・中・韓国と共通して多い問題である。

国立青少年教育振興機構 (2018)の調査結果1によると、日本の高校生は、先進国の中でも「落ち込み」を感じる人が多く、同時に自己肯定感が低い傾向にある。自己肯定感の低さとうつには関連性があるという複数の研究結果が示されている2,3。思春期のうつ病は、成人期のうつ病との関連4や、成人期の心理社会的結果と関連し人生を通した問題につながる可能性が示唆されている5。つまり、自己肯定感への介入は、将来のうつ病予防およびその後の人生の困難さを減らす可能性がある。自己肯定感の低下への介入がうつ病のリスクを減らし得るという研究結果が示されている6が、自己肯定感を改善させる介入をどのようにすればよいかについての明確な指針はない。

前述の調査結果1では「教師が生徒の相談相手になったり、生徒のことを理解してあげると生徒の自己肯定感を高める効果が見られた」と述べられている。つまり、学校における教師の共感的関わりが、日本の高校生に多く見られる自己肯定感の低さを改善させる有用な介入となる可能性がある。しかしながら、「日本は他の先進諸国と比べて先生へのポジティブなイメージが低い」1傾向にあり、自己肯定感を改善するための役割を十分に果たせていない現状がある。

校内の教師以外の支援者として、学校におけるカウンセリング機能の充実を図るため、本邦でもSCの導入が文部科学省主導で進められており7、配置が進む一方で、その活用が不十分という指摘もある。SCの全国的な利用率についての明らかなデータはないが、ある自治体の学生へのアンケート結果では利用率は1割程度と低く、全国的にも高くはないことが推察される8。活用が不十分となる理由の一つに「有効活用するシステムが学校内にない」という問題が指摘されている9。SCが教師と同様に相談役となることで自己肯定感を高める可能性があるが、有効活用するシステムがないために機会損失している可能性がある。

我々は高校生がSCに対して「身近な理解者、応援者」というイメージを持ちその利用率をあげることを目的として「スクールカウンセラーのリブランディング」を考案した。

METHODS

SCを利用しない理由を高校生へヒアリングしたところ,「存在を知らない」、「問題を抱えた人が行くイメージがある」等の声があり、「SCの存在認知度が低いこと」「利用シーンのイメージが伝えられていないこと」がその原因として考えられた。そこで、SCの存在が学生の日常に溶け込み・身近な存在となるように、学生にとってのSCの価値定義を見直し、その価値の言語化・ビジュアル化を通じたリブランディングを考案した。

リブランディングの考え方

現代の学生の共通課題

現代の学生の傾向として、新型コロナウイルスによるInstagramやTiktok等のSNS利用時間のさらなる増加により、自己肯定感の低下、ひいては承認欲求の高まりがさらに進んでいる。とにかく彼ら・彼女たちは、自分の存在や選択、生き方を他者に「認めてもらいたい」「褒めてもらいたい」のだ。

SCの価値定義

現状、学生にとってSCは、「相談」する人だ。「相談」は、なにか困ったことが起きたときに、自分より知見がある人に対して話すことであり、「異常時×上下関係」のイメージが発生する。SCと学生の理想の関係は、「日常時×対等な関係」で向き合うことだ。そこで、上記した学生の課題感も踏まえて、SCに対するイメージを、「相談者」から「応援者」へ、言語化とビジュアル化のリブランディングを通してイメージ転換を狙う。

リブランディングの方向性

自己肯定感の低下が進む学生にとって、SCが常に応援者であることを知って・共感してもらうために、下記タグラインをベースにしたコミュニケーション設計を考案した。

School Counselor #まだ知らないでしょ、みんなの味方。

  1. SCの存在認知を取るために、校内複数個所にポスターを貼る

poster

  1. SCへの興味・理解を促進するために、トイレの鏡等を活用し、いわゆる「SNS映え」を意識したCheer Messageを仕込む

mirror

  1. カウンセリング室への行動喚起を促すために、カウンセリング室内に自分の小さな目標を宣言できる、「SNS映え」を意識したインタラクティブウォール「My Goal Wall」を設置する

Wall

実現方法について

  • プロセス:保健委員会活動の一環として取り入れてもらう
  • 予算:生徒会費を想定
  • 調整先:生徒会・SCの方々と協力、他学生を一部巻き込む

プロトタイプ予定

  • 実施場所:群馬県内の中高一貫校(吉良明海里の所属校)
  • 実施想定プロセス・スケジュール:
    • SCの方々へ課題共有(12月末)
    • 学校・生徒会・カウンセラーへプロジェクト案を共有(1月上旬)
    • 委員会活動として企画を通し、予算を確保(1月中旬)
    • 実際に設置する箇所と最終デザインの確認・交渉(2月)
    • 各制作物の発注(3月末まで)⇒プロジェクト本格的始動

DISCUSSION 

日本の高校生のメンタルヘルス問題で重要である自己肯定感の向上のために、SCとの心理的な距離を近づけて,生徒が彼らを身近な共感者であると感じられるようになり,結果,その利用率が上がることを目的としたスクールカウンセラーのリブランディングを行った。

SCのロゴを作成周知し、校内に同ロゴと共に共感的メッセージが閲覧可能となるような仕組みを作っていきたい.また「My Goal Wall」と名付けたinteractive wallをカウンセリング室の中に設置することで、旧来のカウンセリングよりもより身近で近い存在であることを表現できるだろう。

今回の実装内容には、①ロゴ作成、②校内の共感的メッセージの配置,③Interactive wallの設置、が含まれている。今後実施して、その長所・短所を検討し、他学校への提案をしていくことになる。高校のSCのリブランディングを行うことで、生徒にとってはカウンセラーが身近な存在と感じられるようになり、利用率の向上が得られることを期待する。

また、校内の全ての生徒がSCおよびカウンセリング室を利用しやすくなると同時に、すでに利用している生徒、必要としている生徒にとって、彼らの秘密が守られるような仕組みづくりや周知を行い、引き続き安心して利用できるように配慮していく必要がある。

プロトタイピングを通して、実際に生徒達のSCの利用率が上昇したのかどうかを調査していく予定である。2021年12月中に生徒に対しての意識調査をグーグルフォームを介して行い、実装後の 4月、9月、12月に同じ内容の調査を行うことでこのプロジェクトの実用性を測る。

その後活動を広めるべく、実装内容の検討を行った後、他学校にも取り組みを共有し、実装していきたい。

REFERENCE

  1. 国立青少年教育振興機構. (2018). 「高校生の心と体の健康に関する意識調査報告書」ー日本・米国・中国・韓国の比較ー. Retrieved Nov. 19, 2021 from https://www.niye.go.jp/kanri/upload/editor/126/File/report.pdf
  2. Struijs, S. Y., de Jong, P. J., Jeronimus, B. F., van der Does, W., Riese, H., & Spinhoven, P. (2021). Psychological risk factors and the course of depression and anxiety disorders: A review of 15 years NESDA research. Journal of affective disorders, 295, 1347–1359. https://doi.org/10.1016/j.jad.2021.08.086
  3. Shah, S. M., Al Dhaheri, F., Albanna, A., Al Jaberi, N., Al Eissaee, S., Alshehhi, N. A., Al Shamisi, S. A., Al Hamez, M. M., Abdelrazeq, S. Y., Grivna, M., & Betancourt, T. S. (2020). Self-esteem and other risk factors for depressive symptoms among adolescents in United Arab Emirates. PloS one, 15(1), e0227483. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0227483
  4. Johnson, D., Dupuis, G., Piche, J., Clayborne, Z., & Colman, I. (2018). Adult mental health outcomes of adolescent depression: A systematic review. Depression and anxiety, 35(8), 700–716. https://doi.org/10.1002/da.22777
  5. Clayborne, Z. M., Varin, M., & Colman, I. (2019). Systematic Review and Meta-Analysis: Adolescent Depression and Long-Term Psychosocial Outcomes. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 58(1), 72–79. https://doi.org/10.1016/j.jaac.2018.07.896
  6. Sowislo, J. F., & Orth, U. (2013). Does low self-esteem predict depression and anxiety? A meta-analysis of longitudinal studies. Psychological bulletin, 139(1), 213–240. https://doi.org/10.1037/a0028931
  7. 文部科学省. Retrieved Dec.8, 2021 from https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/066/gaiyou/attach/1369846.html
  8. 文部科学省 平成 29 年度いじめ対策・不登校支援等推進事業 報告書 SC及びスクールソーシャルワーカーの常勤化に向けた調査研究.
  9. 東京学芸大学教育実践研究 第 16集 pp. 171-178,2020,cf.9千葉大学教育学部研究紀要,55,87-95,2007.