スキンケアの基本である「保湿」は、皮膚のバリア機能を正常に保つための行為であり、毎日継続して行うことが大切である1。特に、子どもの皮膚はバリア機能が低く、慢性疾患のアトピー性皮膚炎を含む皮膚トラブルを引き起こしやすい1。子ども自身が保湿の大切さを理解することは難しく、保護者の介入が必要である。しかし、保湿剤の冷たさや手間がストレスに繋がりやすく、保湿に対して抵抗感を抱く子どもは少なくない2,3。保湿を行うタイミングの中で、最も肌が乾燥しやすい入浴後が重要である1。本施策の目的は、保湿に伴うストレスを軽減し、習慣化の一助となることとした。具体的には、背中にくぼみのあるラバーダックを使用して保湿剤をあたためること、およびアヒルを主役としたポスターを浴室に貼ること、の2点である。入浴中、必要量の保湿剤をのせたラバーダック(以後、アピルン)を浴槽内に浮かばせ、保湿剤をじんわりとあたためて冷たさを軽減する。ポスターには、保湿剤を背中に乗せるアピルンの姿と、アピルン(親鳥)がその子どもに保湿剤を塗ってあげている姿を示し、子どもに一連の流れを物語のように感じさせる。保湿への動線を示すことで、保護者は子どもを保湿に誘導しやすくする。保湿への抵抗感を軽減し、習慣化への助けとなることが期待される。
慶野歌音 Kanon Keino 高校2年
司馬慧理 Eri Shima 会社員
東亜希哉 Akiya Higashi 医学部5年
人の皮膚には、皮膚を守るバリア機能があり、体内の水分の蒸発を防ぐほか、異物が皮膚に侵入することを防ぐといった働きをする1。子どもの場合、このバリア機能が低いために、アトピー性皮膚炎を含む皮膚トラブルを引き起こしやすい。スキンケアの基本である「保湿」は、乾燥を防ぎ、バリア機能を正常に保つために必要な行為である。さらに、皮膚トラブルの重症度にかかわらず、継続して行うことが大切であり、アトピーの予防に繋がるとされている4。しかし、保湿は個人の努力に頼る面が大きいため、軽症かつ痒みのない時にはケアせず、悪化時のみのケアにとどめてしまう患者が多いことが課題とされている5。特に、子ども自身が保湿の重要性を理解するには難しく、保護者の介入が不可欠となる場面が多い。一方、保湿を行う最も重要なタイミングは、肌が最も乾燥しやすい入浴後であり、できるだけ早く塗ることが望ましい。しかし、入浴後の温まった肌に冷たい保湿剤を塗ることは不快感を伴いやすく、炎症の重症度によっては痛みに繋がるものになる。このような保湿に伴うストレスが、習慣化への妨げとなっているものと考える。本施策では、入浴から服を着るまでの時間の中に、保湿するステップを組み込む仕掛けを提案する。
背中に窪みのあるラバーダック(市販品6、本施策では「アピルン」と称する)と、アピルンのポスターを使用する。使用場面は、子どもと保護者が一緒に入浴する場面を想定する。
1. アピルン:入浴時、アピルンの背中のくぼみに、必要量の保湿剤を乗せる。あたたかい浴槽内または、あたたかいお湯の入った洗面器などの中でアピルンを浮かばせることにより、保湿剤をじんわりとあたためる。
2. アピルンのポスター:浴槽横の壁および保湿剤を塗る場所の壁の計2箇所に、子どもの目線に合わせて、アピルンのポスターを貼る。前者は、アピルンの背中に保湿剤を乗せようとしている姿を示し、後者は、アピルン(親鳥)が翼で撫でるように、子どもの鳥に保湿剤を塗ってあげている姿を示す。入浴から保湿を行うまでの一連の流れに物語性を持たせると同時に、保湿への動線を与える。
ポスターのデータはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス下で配布し、各家庭で印刷できるように提供する。印刷したものを、100円ショップなどの小売店で購入することのできるラミネートフィルムの間に挟んで密着させることにより、浴室用ポスターを作成する7。
お風呂のおもちゃの定番の1つであるラバーダックは、浴室内に違和感なく溶け込みやすいものと考える。本施策では、背中にくぼみのあるタイプを選定した。これは、背中のくぼみの表面積が大きいほど、保湿剤を均一にあたためやすくなるものと考えたためである。
本施策では、保湿時に保湿剤を取り出すのではなく、入浴時にアピルンの背中に保湿剤を乗せておく。これは、保湿にかかる手間と時間を削減し、入浴後すぐの保湿を促すものと考える。さらに、保湿剤を乗せたアピルンを、あたたかい浴槽内であたためることで、保湿剤の冷たさを軽減させ、皮膚に塗布する際の刺激抑制に繋がることを期待する。
アピルンは浴室内で使用するものであるため、カビや汚れには細心の注意が必要となる7。浴室の換気を行うことに加え、使用時以外は、床や湯船に直に置かずフックやカゴで吊るし、十分に乾燥させることを推奨する。
より効果的な保湿剤の温め方として、アピルンの腹部、すなわち水に面している側に、保湿剤入り容器を設置することが考えられる。しかし、現時点において、保湿剤入り容器や、これを設置できるラバーダックは存在しない。容器の形状を卵型にし、これをアピルンの腹部に設置することが実現可能であれば、アピルンとしての魅力はより増すだろう。
入浴時の親子の目線が浴槽横の壁に向けられたとき、①”アピルンの背中に保湿剤が乗せようとしている姿”が目に入る。実際のアピルンの背中に同様の行動を行うことで、”同じことをしている”と感じさせる。続いて、浴槽から上がり、保湿する場所付近の壁には、②”アピルン(親鳥)が翼で撫でるように、子どもに保湿剤を塗ってあげている姿”を示す。この場合も同様に、実際に保護者が子どもに保湿剤を塗り、また塗り合うことによって、”同じことをしている”と感じさせるものである。このように、「保湿」に関わる一連の流れに物語性を持たせることで、「保湿」することへの動線を示す。同時に、アピルンに対する共感を抱くことで「保湿」に対する抵抗感を軽減し、受け入れやすくなる環境を整えられるものと考える。
ポスターへの関心度をより高くする手段として、ポスターの色を変化させることが挙げられる。ポスター①は、上述の通り、”アピルンの背中に保湿剤を乗せようとしている姿”を表す。これにお湯をかけることで、”アピルンの背中に白いホイップ状のクリームが乗っている姿”へと変化させる。このようなポスターを作成するには、温度によって色変化する示温材料を用いた印刷物を提供する必要がある9,10。以上のことが実現可能であれば、”同じことをしている”感覚をより強く持たせることに繋がるだろう。
以上の施策を通じて、子どもが保護者とともに「保湿」に慣れ親しむことにより、歯磨きの習慣化と同じように、「保湿」も日々の習慣として根付いていくことを期待する。