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路線検索+1

路線検索+1

ABSTRACT

車いす利用者の中には、過去に受けた乗車拒否等の経験から、路線バスの利用を控え、社会参加の機会が減少している方がいる1。全国の乗合バスのノンステップバス導入率は未だ61.2%であり、増加率も年2%程度に留まっている2。そのような中で、現在バス会社においては、車いす利用者の快適な利用の促進や運転士の負荷軽減等を目的に、車いす利用者から事前に連絡があった場合は、ノンステップバスを当該路線へ配車する、予備役の運転士を乗降時の補助者として派遣する等の対応を行っている。しかし、多くのバス会社において連絡手段は電話のみとなっていることから、利用者にとって手間が掛かるため、事前連絡は一部の利用者に限られている。このような車いす利用者とバス会社の連携不足が、乗車拒否等の発生頻度を増加させ、車いす利用者の外出控えの原因の一つとなっていると考える。

そこで、通常の路線検索から、簡単にバス会社へ利用連絡が出来るツール「路線検索+1」を提案する。車いすの利用有無に関わらず誰もが利用する路線検索で、利用するバスの時間等を調べた後、同じツール上でバス会社へメール等にて気軽に連絡が出来るようにする。本ツールによって、車いす利用者とバス会社の連携が促進され、車いす利用者が気軽かつ確実に路線バスの利用が出来るようになると共に、運転士や他の乗客も気持ちよく車いす利用者を迎えることが出来るようになり、車いす利用者の外出促進、生活意欲向上に繋がると考える。さらには、本ツールによって、車いす利用者の利用データが蓄積されることにより、限られた資金の中で車いす利用者の多い路線から優先的にノンステップバスを導入する等、ノンステップバスの効果的な導入に繋がり、車いす利用者や周囲の乗客がさらに気軽にバスを利用出来るようになることで、バス会社の生産性も向上させることが出来ると考える。

AUTHORS

荒砂早織 Saori Arasuna 医療機器メーカー勤務
神野明日香 Asuka Kamino 青山学院大学法学部2年
川野舞奈 Mana Kawano 横浜市立大学医学部1年
古田皓也 Kouya Furuta ヘルスケアIT企業勤務

INTRODUCTION

車いす利用者の中には、過去に路線バスを利用した際に、十分な設備がないために乗車を拒否されたり、乗降に時間が掛かることから運転士や他の乗客に嫌な顔をされたりする等の不快な思いをした経験があり、路線バスの利用を控え、社会参加機会が減少している方がいる1

近年、ノンステップバスの整備が進んでいるものの、全国の乗合バスのノンステップバス導入率は2019年度末時点で未だ61.2%であり、路線や時間帯によっては、車いすの乗降設備の無いツーステップバス等の車両が運行されている2。また、たとえノンステップバスであっても、車いすを固定できる設備が限られるため、同じバスに複数の車いす利用者が居る場合や既に乗客が満員でスペースが確保できない場合等、安全上の理由によって、利用を断らざるを得ない場合がある3,4,5

現在、バス会社は、事前に車いす利用者より連絡があった場合には、ノンステップバスを配車する、予備役として待機している運転士を乗降時の補助者として派遣する、予め車いす乗車用のスペースを確保する等の対応を行っている。事前連絡に基づく対応によって、車いす利用者が快適かつ確実に利用できるようになるだけでなく、運転士の負荷の軽減や運行遅延の防止にも繋がるため、事前連絡は車いす利用者のみならず、バス会社にも利点があるが、現状、多くのバス会社において連絡手段は電話のみとなっており、事前連絡は一部の継続的な利用者等に限られている*。車いす利用者にとっては、利用の都度、バス会社へ電話をすることは手間であり、特に初めて利用する路線の場合には、まず適切な連絡先を探さなければならずさらに工数がかかることが原因であると考えられ、この車いす利用者とバス会社の連携不足が、車いすの乗車拒否等の発生頻度を増加させ、車いす利用者の外出控えの原因の一つになっていると考える。(*バス会社勤務者に確認した情報に基づく)

将来的には、車いす利用者が事前連絡なしで路線バスをいつでも気軽に利用できる状態を達成する必要があると考えるが、ノンステップバスの導入には多額の投資が必要となるため、現状、増加率は年2%程度2に留まっており、直ぐに大幅に改善することは難しい。そこで、まずは車いす利用者とバス会社の連携を改善することが、車いす利用者の外出促進への一歩だと考える。

METHODS

車いすの利用者が、通常の路線検索から、簡単にバス会社へ利用連絡が出来るツール「路線検索+1」を提案する。「路線検索+1」とは「路線検索に利用連絡という1機能を追加」ならびに「最小限のステップで利用連絡が完結」することを意味しており、車いすの利用有無に関わらず誰もが利用する路線検索と同じツール上で、車いす利用者が気軽に事前連絡を行えるようにすることで、車いす利用者とバス会社の連携を改善する。

なお、連絡方法は、利用者の中に電話を好む方もいると考えられるため、電話も選択可能とするが、事前登録によって都度の入力項目を最小化し、メールでの連絡をより気軽なものとすることで、メールでの連絡を推奨する。統一されたメールフォーマットで連絡がなされることにより、バス会社でのデータ蓄積が容易となり、その結果、車いす利用者の多い路線から優先的にノンステップバスを導入する等、ノンステップバスの効果的な導入に繋がると考える。

「路線検索+1」利用手順

利用手順 利用手順

DISCUSSION

車いす利用者が最小限のステップの追加のみで利用連絡を行えるようにするためには、本ツールは既存の路線検索アプリへの搭載が望ましいと考える。しかし、導入に当たってはアプリの改修費用が発生することから、バス会社や路線検索アプリ事業者にとって、導入は簡単なことではないと考えられる。そこで、まずは「路線検索+1」のアイデアをSNSで発信することで、その反響から、社会的な意義の大きさを証明したいと考える。その上で、バス会社等へ働き掛け、本機能を実現したい。

なお、車いす利用者が真に制限なく気軽に外出が出来るようにするためには、路線バスのみならず電車等、他の公共交通機関との連携改善も必要であると考える。ノンステップバスの導入不足や車内スペースの不足、ならびに運転士1人での乗降対応が求められるという点から、路線バスは他の公共交通機関と比較し、車いすでの利用により困難が伴うと考え、バス会社と車いす利用者の連携改善が優先すべき課題であると考えているが、本ツールは他の公共交通機関へも展開が可能であるため、将来的にはどの公共交通機関でも利用可能なツールへと進化させていきたい。

REFERENCE

  1. 「障がいを理由とした差別と思われる事例」・「障がいがある人への配慮の好事例」の募集結果 芦屋市 https://www.city.ashiya.lg.jp/shougai/sabetukaisyou/sabetujireibosyuu.html

  2. 公共交通移動等円滑化実績報告 バリアフリー整備状況 国土交通省 https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/sosei_barrierfree_mn_000003.html

  3. ノンステップバス導入に見るバリアフリー施策の効果に関する調査について(結果公表) 国土交通省 https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha03/01/010210_.html

  4. バスのご利用案内 東部バス https://www.tobu-bus.com/pc/inquiry/kurumaisu.html

  5. バスの乗り方 静鉄バス https://www.justline.co.jp/guide/wchear/

  6. 車いすで公共交通、当事者が思う「もったいなさ」とは(朝日新聞デジタル) https://www.asahi.com/articles/ASP4Y0BFLP4VULBJ006.html