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介護スタッフと利用者のためのレターセット『ふむふむ』

介護スタッフと利用者のためのレターセット『ふむふむ』

ABSTRACT

通所介護サービス利用の際、介護スタッフー利用者間のコミュケーションが困難な時がある。会話を弾ませ、信頼関係を築くには相手のパーソナリティや生活背景を把握して会話を行うのが望ましい。しかし、一般的なカルテに掲載されている内容は医学的情報(身長、体重、家族構成、病歴、介護状況)がメインで、利用者のパーソナルな情報を得るのに苦労している。

そこで、手紙をモチーフとしたコミュニケーションツール『ふむふむ』を考案した。『ふむふむ』は家族が利用者のより詳細な趣味・嗜好に関する情報や、利用者に対してメッセージを簡単に書けるようなフォーマットになっている。ここに書かれてあるパーソナルな情報や想いをスタッフらが共有することで、より有効なコミュケーションを行うことが出来る。

このレターセットを介護施設で展開し、今後さらに他の医療機関での応用や、デジタル化による活用法について検討していきたい。

AUTHORS

磯沼千花 Chika Isonuma 派遣社員/社会人学生
高梨美奈 Mina Takanashi 健康運動指導士/がん専門運動指導士
鈴木修平 Shuhei Suzuki 言語聴覚士

INTRODUCTION

介護の現場では、介護スタッフと利用者間のコミュニケーションを円滑に行うことが重要である。会話を通して、お互いの好きな事や趣味に共通点があると親近感が湧く。その状態で更に時間を共にすると、信頼関係が構築されやすくなり楽しく介護サービス利用できる。

しかし、利用者は高齢による聴力低下や認知機能低下等により、コミュケーションが上手くいかずストレスを感じる場面がある。その結果、スタッフの何気ない振る舞いや声掛けに対して気分を損ね、介護が上手くいかない場面が多々ある。特に初回利用時はそれが顕著にみられる。

その理由として、スタッフが利用者の特徴を把握しきれていない、一般的なカルテに利用者のパーソナルな情報の記載が少ない等が挙げられる。現状では、スタッフが家族に直接電話をして尋ねて対応している、しかし、この作業に時間を割くのは利用者家族が日中働いてる場合だと時間を調整するのが難しく、両者の負担が増えてしまう時がある。

そのため我々は、介護施設で働くスタッフがより簡単に利用者の情報を知り、円滑なコミュケーションを取るためのレターセット『ふむふむ』を提案する。

METHODS

Methods

レターセット『ふむふむ』は、ご家族から利用者の情報(出身地、趣味、嗜好、人柄など)やメッセージを含んだ内容の手紙を書いてもらう。構成は家族の負担を配慮したフォーマットとなっており、スタッフが知りたい情報を書いてもらう項目や、メッセージを自由に記す手紙形式になっている。従来の個人の趣味・嗜好を探るシート1は事務的で、家族にとって積極的に書きにくいものであった。『ふむふむ』は手紙形式のため、家族はこれまでを振り返りながら前向きに取り組むことができる。利用の手順は以下の通りである。

Methods

1. 利用前の家庭訪問時

レターセット『ふむふむ』の趣旨を動画を用いて説明し、同意を得られた家族に『ふむふむ』と、記入例としてスタッフ紹介シートを渡す。

2. 初回利用時

家族が書いた『ふむふむ』をスタッフが預かる。『ふむふむ』はコピーし、いつでも閲覧可能にしておく。また、現物は利用者に「家族からのお手紙」として届ける。

スタッフは、『ふむふむ』を通じて得た情報をスタッフが回想法2のように会話に取り入れ、利用者とのコミュケーションが円滑になる。

利用者は、初回から楽しく話しができることで、慣れていない場所や人に対する不安や緊張3などが軽減し過ごしやすくなる。

家族は、利用者本人が前向きにサービスを利用することで介護負担が減る。

DISCUSSION

本ツール『ふむふむ』は介護施設において、利用者の情報を調べるというスタッフの負担を軽減するだけでなく、利用者はスタッフと信頼関係を築くことで、安心して施設を利用できるようになる。現段階では、『ふむふむ』は施設を初めて利用する際に活用するツールになっている。しかし、利用者を担当したスタッフが新たな情報を書き加えたり、バージョンが異なる『ふむふむ』を介して家族とのやり取りを重ねるといった展開も可能である。当面は2~3か所の介護施設で試験的に使用し、スタッフやご家族からの意見をもとに、コミュニケーションツールとしてより良くするために修正を重ねる。さらに、試験運用後に『ふむふむ』の趣旨や、実際にこれを活用し、スタッフが利用者とどのようなコミュニケーションをはかっているか、といった取り組みの具体例や、使用したスタッフの声を施設のホームページやYouTubeで紹介する。さらに、概要欄のリンクからフォーマット取得できるようにし、他の介護施設でもロイヤリティフリーで実際に使用を促していく。

今回は、家族の協力が重要なため、同居家族がいると思われる通所介護サービスを対象にした。通所介護に限らず、入所介護施設でも活用可能である。また、その他医療施設、今後増えるであろう遠隔診療など、患者と信頼関係を築くためのコミュニケーションに時間を費やすことが難しい現場での活用も検討していきたい。

今後の課題としてアナログな形式だけではなく、将来的に介護現場のオンライン化が進むことが考えられるため、デジタルな方法で家族らが記入、施設で一元化して管理する形が必要である。さらに家族形態が変化するにつれ、本人以外からの情報収集が難しくなる時代も予想される。将来的には、登録した家族・友人、あるいはSiriのようなAIによる情報共有システムで、よりカスタマイズされた介護・リハビリテーションに発展する可能性がある。

REFERENCE

  1. リハプラン マガジン 興味関心チェックシート https://rehaplan.jp/articles/350
  2. 大西由佳子,鈴木千絵子,認知症高齢者における回想法の効果に関する文献研究,姫路大学看護学部紀要,第12号,p17−26,2020
  3. 村田伸,軽度要介護高齢者における居宅生活の継続要因に関する前向き研究,理学療法科,23(4):487-490,2008