Product

野菜への消費意識が低い若年層向けのファッションブランド、THE VEG’s CHASE

野菜への消費意識が低い若年層向けのファッションブランド、THE VEG’s CHASE

ABSTRACT

20世紀後半から日本の食生活は欧米化と簡素化が進み、和食の基本である一汁三菜ではなく脂質や糖質に偏った内容になっている。とりわけ年代が若いほど、副菜を合わせた食事の頻度が少ないことが厚生労働省の国民健康・栄養調査で報告されている。また、この理由として、そもそも食への意識が低いことや、料理に対する時間を工面することが難しいという点が挙げられる。

このように文化的・社会的背景とともに変わってきた食生活を変えるためには、若い世代に対して野菜摂取を単にプロモーションするのではなく、野菜を積極的に摂取することが格好良いと思えるカルチャー(文化)を醸成する方が効果的ではないかと考えた。そこで、ユース層向けファッションブランド「THE VEG’s CHASE」を創設し、自然と野菜を多く摂るようなユースカルチャーの開化を提案する。ファッションは着る人の強いアイデンティティを構築するだけではなくそれを見る人の意識にも影響を与えることができ、1対多のコミュニケーションが実現できるという点でコミュニケーションデザインの中では強力なツールになる。具体的には親しみやすいイラスト化した野菜や、野菜摂取の重要性を訴える文言を入れたTシャツやパーカー、トートバッグなどのアパレル製品、野菜由来の染料や繊維から作られる衣類などを展開することで今ある若年層向けファッショントレンドを崩さず継承し、そこに野菜という新たな付加価値を加えることで野菜摂取への意識を高めることを目的としている。その先の展望としては、ファッションを起点に様々な既存の野菜サービスをつなぐプラットフォームとしての可能性、あるいはサステナブルなファッションを提案するアパレル企業とのシナジーを起こし、新たな社会的価値を生み出すことも考えられる。

AUTHOR

吉田翔貴 慶應義塾大学環境情報学部3年。東京デザインプレックス研究所 グラフィック/DTPコース修了。

INTRODUCTION

厚生労働省が毎年発表している国民健康・栄養調査報告によると、年代が若いほど三食における野菜の摂取量が少ないことが分かり、こうした野菜不足から生じる食物繊維の不足などから便秘になりやすくなったり、生活習慣病にかかりやすいなど健康面での様々な不安を生じさせていることが明らかになっている1, 2

これらの原因として、そもそも健康意識が低いことや、簡便化思考の強い20代と多くの場合調理を要する野菜類との相性の悪さが主に挙げられる3

ただ、全般として野菜が嫌いだから食べていないという訳ではないという調査もあり、単にそこにあれば食べるという若者も多いようだ3。本プロジェクトではこうした野菜に対する受動的態度を課題と捉え、自らが進んで野菜を手に取るような能動的態度に変えることを主なテーマとしている。

野菜を積極的に摂るカルチャーを醸成していくために、若年層とのタッチポイントとして「ファッション」を用いることに関してその可能性を感じている。ファッションは着る人の強いアイデンティティを構築し、日々の暮らしのなかで目にする機会が多く、潜在意識に強く働きかけることができるという点に着眼したからだ。

かつ、ファッションは当の本人だけでなく、それを見る人の意識にも働きかけることができるという点で、1対多のコミュニケーションデザインのツールになると考えている。

そこで、「”VEGETABLE“という価値を創り続ける」というブランドコンセプトの元、野菜のある暮らしをスタイリッシュなものとして提案するファッションブランドとしてTHE VEG’s CHASEを立ち上げ、既存のユースカルチャーと融合しながら展開する案を提案したい。また単なるファッションブランドに留まらず、実際の消費につなげていくためのアクションも推進できるプラットフォームでありたいと考えている。

METHODS

具体的なブランド展開策は現時点で以下のものを考えている。

①野菜のイメージを表すイラストや文言を入れたファッションブランド展開
GREEN SPOONのパッケージデザインに用いられるイラストのような親しみやすい野菜に関するイラストや、センテンスをさりげなく入れたTシャツやパーカーの開発により、ビジュアルの力で野菜をアピールする。

ブランドの方向性としては、これまでのファッショントレンドを崩さず、日常に溶け込むデザインを目指している。積極的に理念に共感する他ブランドとのコラボ商品の展開、Tシャツに限らずエコバッグ、ハンドバックやタオルなどの小物類の展開も図りたいと考えている。

②野菜を原料とした染料、繊維を用いたファッション
これに関してはいくつか先行事例がある。1つ目は愛知県の繊維商社豊島が展開する「FOOD TEXTILE」だ4, 5。こちらはサステナブルなファッションブランドを目指し、服の染料に廃棄予定の野菜を用いてファッションブランド展開を2015年から行なっている。また、農業女子とのコラボブランド「vegico」のプロジェクトもクラウドファンディングで成功させており、独自の常設店舗を持たず、全国各地にポップアップストアを期間限定でオープンさせ、メディアにも度々取り上げられている。目指す方向性はやや違うものの、プロダクトとして当ブランドとかなり類似するものがあるので、こうした企業と共に商品開発を行うことを検討したい。

また、H&Mは2020年3月より持続可能なファッションブランドを目指し、普段の生活のなかで廃棄物になるものを原料とした商品開発を行なった6

こうした流れはいずれも、石油などの化石燃料由来の繊維からの脱却を目指した「サステナブルなファッション」、あるいは膨大なフードロスの活用を目指したブランドであることを踏まえ、ここに「若者の野菜不足解消」を掲げる当ブランドが参入することで新たな社会的意義のあるブランドが創出できると考える。この分野は自社で完結させずとも、繊維、染料などで協業できるパートナーと共に進めるのが好ましいと考える。

figure1

③購入時に野菜を買えるor特典としてついてくる
こうしたファッションブランドを展開しても実際に若年層が野菜を食べるようにならなければ意味がない。そこで購入時に同時に好きな野菜をプレゼントする、もしくはGREEN SPOON などのスタイリッシュなスムージーブランドの商品が一緒にもらえるなどのインセンティブをつけ、そこからユーザーの野菜のタッチポイントを紡いでいくことを目指したい7。Oisixなどが展開する定額野菜宅配サービスが店舗やECサイトで契約できること、八百屋さんへのインタビュー記事などをWEBメディアに展開するなどして八百屋に親近感を持ってもらうなど、ファッションを起点に多方面に野菜の魅力を届けたい。単に野菜だけに限らず、食品メーカーと協業して野菜チップスや野菜のミールキットを独自ブランドとして展開し、「気軽に野菜に触れる文化」作りのための活動も将来的にはしていきたい。

④ブランドとしての話題性・ターゲティングについて
ブランドとして常に文化を創り続ける創造的主体であるという目標の元、積極的にファッションや野菜に関するイベントや挑戦的な店舗展開を実現したい。

例えば、若年層モデルを積極的に起用し、季節に応じた旬の野菜をテーマにしたファッションショー(ファッションのコーディネートが野菜同士の組み合わせをモチーフに考えられているなど)の展開、今着ている服からその日のおすすめ野菜メニューのリコメンド(例えば緑のトップスとベージュのボトムスを着ている人にカメラをかざすとほうれん草とじゃがいものソテーのレシピが出てきたり)を通じて、本ブランドの服を持っていないときでもゲーム感覚で野菜に触れてもらう、などを考えている。

figure2

DISCUSSION

実際に野菜の購買行動にこれらのブランドが有効に働きうるのかは未知数である。だが野菜の魅力を発信し、若者のスタイリッシュな行動の一つに「野菜を食べる」と言う行為が加わることを目指してファッションを軸とした様々なブランドの活動が考えられる。野菜に関する体験そのものが「かっこいい」「スタイリッシュ」と扱われるために、ファッションという切り口からその魅力を発信し、若者の消費行動を変革していきたい。

REFERENCE

  1. 厚生労働省(2018)「第3部 生活意識の変化」(最終閲覧日:2020年11月4日)
    https://www.mhlw.go.jp/content/000615345.pdf
  2. 農林水産省(2013)「野菜の消費をめぐる状況について」(最終閲覧日:2020年11月4日)
    http://www.k-engei.net/contents/office/img093.pdf
  3. PR TIMES(2020)「約8割が「野菜好き」にもかかわらず半数弱が「野菜不足」を認識!内食が求められる今、若者の野菜不足解消のカギは「手軽さ」と「サスティナビリティ」!?」(最終閲覧日:2020年11月8日)
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000056610.html
  4. FOOD TEXTILE (最終閲覧日:2020年11月8日)
    https://www.foodtextile.jp
  5. マイナビ農業(2020)「野菜の色を染料に 「着る野菜Tシャツ」で無駄なく、おしゃれに!」(最終閲覧日:2020年11月8日)
    https://agri.mynavi.jp/2017_12_26_14714/
  6. WWD(2020) 「「H&M」がコーヒーの粉や漁網から製作したサステナブルな最新コレクション発売」(最終閲覧日:2020年11月8日)
    https://www.wwdjapan.com/articles/1059723
  7. GREEN SPOON(最終閲覧日:2020年11月8日)
    https://green-spoon.jp