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「ぬりえほん」できょうだい児の待ち時間を楽しい時間に!

「ぬりえほん」できょうだい児の待ち時間を楽しい時間に!

「きょうだい児」と呼ばれる、病気の子どもの兄弟・姉妹は、家族でお見舞いに来ても、小児病棟では中学・高校生以下の見舞いを制限している病院もあるため、長時間待合室や廊下で待つことを余儀なくされる。きょうだい児はその場所で、1人で絵本やゲーム等で時間を潰すが、孤独感や疎外感を感じてしまう面が大きい。しかし常時きょうだい児がいる訳ではないため、遊び相手や話し相手として病院側の人員を充てることは難しい。このような状況の中で、きょうだい児が待つ時間を否定的なものと感じるのではなく、ストレスや精神的な負担を少しでも軽減し、楽しく過ごせる仕組みが求められる。 そこで、きょうだい児が過ごす場所に絵柄の枠線を印刷した壁紙を貼ることによって、巨大な塗り絵ができる空間を提案する。塗り絵は年齢を問わず簡単に取り組むことができる遊びであり、複数人が一つの作品を創り上げることから、同じ状況にいるきょうだい児同士、さらには家族同士のコミュニケーションの場となることも期待できる。塗り絵の中身は絵本の1ページとなっており、一定の期間を過ぎると次のページの絵柄に貼替えを行い、物語が進んでいく仕組みである。完成した塗り絵は物語の文章を添えて病院のHPに掲載することで、病室の兄弟も楽しむことができ、またアクセスした人がいいねボタンを押すことができる。きょうだい児がこの場所で過ごす時間が、孤独感に包まれたものではなく、兄弟児同士や病室の兄弟、HPを介した社会の誰かと繋がりを感じられるものとしたい。

AUTHOR

金田 百合子 Yuriko Kaneda 東京デザインプレックス研究所 商空間ビジネススタンダードコース修了 公務員

INTRODUCTION

病気の子どもがいる場合、家族や医療従事者は病気の子どもを優先してしまうのはやむを得ないですが、「きょうだい児」と呼ばれる、病気の子どもの兄弟・姉妹たちが置かれている状況にも目を向ける必要があります。小児病棟では、中学・高校生以下の見舞いを制限しているところもあり、家族でお見舞いに来た際、きょうだい児は長時間待合室や廊下で待つことを余儀なくされます。きょうだい児は、1人で絵本やゲーム等で時間を潰しますが、やはり孤独感や疎外感を感じたり、退屈さ感じてしまう面が大きくなってしまいます。また、看病で忙しい親に自分のことで心配や負担をかけまいと寂しさを隠し気丈に振舞ったという経験談も聞かれます。理想としては、心のケアもできるような遊び相手や話し相手がいることが好ましいですが、常にきょうだい児がいる訳ではないため、病院側の人員をその場所に充てることは難しいと考えられます。

きょうだい児が待つ場所を、仕方なく連れてこられた否定的な場所として感じるのではなく、「楽しく行きたい場所」として感じられ、ストレスや精神的な負担を少しでも軽減できるような仕組みが求められています。きょうだい児が楽しく過ごせる場所を提供することで、親も入院している兄弟も安心することができ、結果的に家族全員をサポートすることにつながるのではないかと思います。

METHODS

きょうだい児が過ごす待合室や廊下に絵柄を印刷した壁紙を貼ることによって、巨大な塗り絵ができ、いつでも誰でも遊べる空間を作ります。壁紙はDIY用の貼ってはがせる壁紙を用意し、壁紙を絵本の形に縁取ることで塗り絵ができる範囲を示します。また万が一壁紙以外の場所に書いても水で簡単に落とせるクレヨンで遊んでもらうこととします。塗り絵の良い点として、特別な知識や技術が無くても誰でも簡単に遊ぶことができる、時間の制限もなく好きな時に好きなだけ取り組むことができるという点が挙げられます。また大きな壁に色を塗ることで、一人で楽しむことも複数人でも一緒に遊ぶこともでき、普段あまり体験することがなくここでしか味わえないわくわく感を得られるような場所とします。

また、塗り絵の中身は絵本の1ページとなっており、一定の期間を過ぎると次のページの絵柄に貼替えを行い、物語が進んでいくという仕組み(「ぬりえほん」)です。完成した塗り絵は物語の文章を添えて病院のHPに掲載することで、病室の兄弟も楽しむことができ、またアクセスした人が「いいねボタン」を押すことができます。

DISCUSSION

「ぬりえほん」がある待合室や廊下できょうだい児が待ち時間を過ごすことで、大きな壁に色を塗るという楽しさや、自分たちのために特別な空間が用意されているというわくわく感を味わうことができます。また一時的にでも一つの作業に没頭することで、抱えている悩みや孤独感から一旦離れることができ、ストレスや精神的負担の軽減に繋がることが期待されます。

他にも、多くの人数が一つの作品を作り上げることから、きょうだい児同士、さらには家族同士でのコミュニケーションの場となることも期待されます。きょうだい児同士が待合室の中にいたとしても、それぞれが別々の遊びをしていた場合は接点を持つことは難しいですが、共通の遊び道具があればコミュニケーションが生まれます。そして塗り絵という遊び場を介して、同じような境遇にいる家族同士で気持ちの共有や情報交換ができるような機会につながります。

また完成した作品をHP上で公開することで、病室の兄弟やアクセスした人も楽しむことができ、「いいねボタン」で反応があれば多くの人との繋がりを感じることができます。きょうだい児がこの場所で過ごす時間が、孤独感に包まれたものではなく、きょうだい児同士や病室の兄弟、HPを介した社会の誰かと繋がりを感じられるものとしたいと考えます。

REFERENCE

  1. 株式会社QLife「がんサポート」編集部(2015年4月)病児や傷ついた子どもが孤立しない社会に病児のきょうだいが楽しめる空間を作りたい
  2. SibChat きょうだい会CAN・ケアラー支援
  3. NuRIE(ヌーリエ)公式サイト