ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ)は、骨粗鬆症や変形性膝関節症などの運動器疾患やバランス能力・筋力低下などの運動機能の低下により、日常生活に必要な身体の移動機能が低下した状態である1。ロコモが進行すると要介護や寝たきりになるリスクが高まり1、近年では、転倒・骨折、関節疾患、脊髄損傷を含む運動器の障害が、要支援・要介護の原因の第1位となっている2。そのため、個々人のQOL維持・向上に加え、健康寿命の延伸や国民医療費の負担軽減の観点からも、ロコモ対策が重要であると考えられる。一般住民に対して行ったロコモ有病率調査によると、40歳未満で約20%、40歳台で約40%、50歳台で約50%が移動機能の低下が始まっている段階(ロコモ度1)であったことから3、若壮年層においての予防が必要であると考えられる。加齢や運動不足、不適切な栄養摂取などがロコモの要因として挙げられることから、予防に必要な下肢筋力向上のための運動を、若壮年層が多く集まるオフィスにおいて欠かせないシュレッダーでの書類処理作業に置き換えることを案出した。実際は、ペダル式シュレッダーとして、シュレッダーに取り付けられたペダルに片足を乗せて踏み込むことで、ペダルに連動した刃が回転し、書類を裁断できる仕組みである。ペダルは、ぷにぷにとした踏み心地のよいものにすることで作業時の楽しさを考慮した。このペダル式シュレッダーの使用により、業務中に無意識に運動する機会を増やすことが出来るとともに、軽い運動によるリフレッシュ効果が見込まれる。導入時には運動器の脆弱性の早期発見が見込まれ、また、継続して利用することによりロコモ予防に必要とされるバランス能力や下肢筋力の向上が見込まれる。ひいては介護予防、健康寿命の延伸に繋がることが期待できる。
沓水 里穂 Riho Kutsumizu 東京医科歯科大学医学部医学科2年
雜賀 夕衣奈 Yuina Saiga 広告代理店勤務/薬剤師 TDP グラフィックデザイン&Mac DTPコース卒業
日本では高齢化社会が進み、2019年10月1日時点で高齢化率は28.4%となりました。今後もますます高齢化率は上昇を続け、2065年には2.6人に1人(38.4%)が65歳以上となる社会がくると推計されています1。高齢者の増加に伴い、医療や介護にかかる費用が年々増加するなか2、未だ平均寿命と健康寿命には男性では約8年、女性では約12年の差があります3。この期間には、健康上の問題で日常生活が制限され、介護が必要になる可能性が高まります。要支援・要介護の原因の第1位は、「骨折・転倒」「関節疾患」「脊髄損傷」を含む運動器の障害であり、24.8%の割合を占めています4。
このような背景を踏まえ、2007年に日本整形外科学会により「ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ)」という概念が提唱されました。ロコモは、運動器の障害(骨粗鬆症や変形性膝関節症などの運動器疾患やバランス能力・筋力低下などの運動機能の低下)のために、「立つ」「歩く」といった移動機能の低下をきたした状態を指します。
一般住民に対してロコモ度テストを実施した調査によると、ロコモ度1(移動機能の低下が始まっている段階)は有病率69.8%で4,590万人、ロコモ度2(移動機能の低下が進行している段階)は有病率25.1%で1,380万人が該当すると推定されています5。有病率は年齢が上がるごとに上昇していきますが、40歳未満でも約20%、40歳台では約40%、50歳台では約50%がロコモ度1に該当しているとされています5。
さらに、ロコモの原因として、加齢や運動器の疾患・障害、運動不足、栄養の偏りなどがあげられること6、中年期の運動習慣が高齢者の筋力と身体能力維持に効果的であると示唆されていることから7、運動を介した若壮年層におけるロコモの予防が大切であると考えました。
しかし、若壮年層では「仕事や家事が忙しい」「面倒くさいから」といった理由から運動習慣は男女とも低いため8、いかに若壮年層の日常生活の中に運動を取り入れることができるかが、ロコモの予防で重要であると考えました。
若壮年層が生活時間を多く費やすオフィスにペダル式シュレッダー「ぷにぺだ」を導入することで、運動する機会の増加を図ります。
シュレッダーでの書類処理は必要不可欠で、かつ継続性が見込まれる作業です。この作業の中に、日本整形外科学会で推奨されている、バランス能力を改善する開眼片足立ちや下肢筋力を向上させるスクワット9のような運動を組み合わせます。
構造としては、ペダルを踏み込むことでシュレッダーの刃が回転し、書類を裁断できるように設計します。ペダルと刃の連動に関しては自動車のエンジンなどにも利用されているクランク機構を利用し、ペダルを踏み込む直線運動を刃の回転運動に変換します。ペダル部分はピストンになっており、蓋をして空気を入れた注射器でイメージされるように、筒の中に気体を入れ、ペダルが上部にある状態に保ちます。ペダルを踏むことでピストン部分が下がり、足の力を緩めると元の状態に戻るため、次の運動を可能にします。
利用者は、ぷにぺだの前に立ち、片足を上げてペダルに乗せ、踏み込みます。踏み込んだ後はペダルに足を乗せたまま力を抜きます。ペダルが上部に上がるため、再度これらの動作を繰り返すことで書類を処理できます。
ぷにぺだの利用により、業務の中で無意識に運動する機会を増やすことが出来るとともに、軽い運動によるリフレッシュ効果が見込まれます。さらにコンパクトなサイズに設計して、机の横など、オフィスの様々な場所に設置できるようにすることで、書類処理中でも会話や他の業務を行うことも可能にします。
また、ペダル部分には弾力性のあるシリコンを用い、踏み心地を良くすることで更なるリフレッシュ効果や利用頻度の増加を見込んでいます。
ペダル式シュレッダー ぷにぺだの利用で必要な、片足立ちやペダルを踏むといった運動により、導入時にはふらつきや筋肉の疲労感などから、運動器の脆弱性の早期発見が見込まれます。また、継続して利用することにより、バランス能力や下肢筋力の向上が見込まれ、ロコモ予防に繋がると想定されます。
ぷにぺだは、電源が不要で静か、コンパクトであることから、個人のデスク横に置いて書類が不要になった時、コピー機の横に置いて誤って印刷してしまった時など、様々な状況で気軽に利用できると想定されます。また、立ちながら足でペダルを踏み込む動作は、デスクワークでおこりやすい足のむくみや疲れの解消に繋がります。そのため、利用者にとってぷにぺだを利用することは、リフレッシュの機会になるというメリットがあります。導入企業にとっては、社員の健康増進・モチベーションアップにつながるというメリットがあります。
本施策では日常生活の中で自然と継続して運動を取り入れられることを目的としていますが、今後の展望として、ぷにぺだの導入時にキャンペーンなどを実施し、ロコモの認知度を上げることで、より積極的な運動習慣や適切な食生活に取り組めるように促すことが考えられます。
また、家庭用として展開することで、在宅ワークでの書類や郵便物の処理などに利用でき、より幅広い世代でのロコモ予防・改善を期待できます。