パーキンソン病は、中脳黒質のドパミン産生神経細胞の減少を特徴とし、手の震え・動作や歩行の困難などの運動症状や、非運動症状を含めた多彩な症状を呈する難病指定の神経変性疾患である。認知症は一度正常に発達した知的機能が持続的に低下し、社会生活に支障をきたすようになった状態である。アルツハイマー型認知症は認知症の約2/3を占め、典型的には記銘想起障害と頭頂葉機能障害(視覚認知障害や失行など)を呈する。
両疾患において、いずれも先行症状として数年前より嗅覚障害が認められることが、複数の研究より示唆されている1,2,3。以上の知見をもとに、においの検知や識別を目的とした、香りを用いたプロダクトの提供が、嗅覚を基点としたヘルスコミュニケーションを促す点で有用ではないかと考えられた。
そこで我々は、パッケージに風味を記載しない形式でフレーバーチョコレートを提供することとした。顧客は封を開けて香りを楽しみ、風味を推察したのち、味わうことでその風味を知る。またパッケージには嗅覚にまつわる科学的情報や雑学を記載し、疾患啓発や健康意識の向上を図る。この一連の体験が、パーキンソン病や認知症の早期発見につながることや、自らの嗅覚について省察し、ひいては自身や周囲の人々の健康を気づかうきっかけとなることを企図する。
東川康嗣 Togawa, Koji 慶應義塾大学医学部卒業後、初期臨床研修中。来年度より放射線科専攻医。
酒井菜摘 Sakai, Natsumi TDP卒業生。現在、外資系製薬企業で広報として活動。
Neurology 72(Suppl 2): S12-20, 2009
https://doi.org/10.1212/wnl.0b013e318198db11
Ann Neurol 63: 167-73, 2008
https://doi.org/10.1002/ana.21291
Arch Gen Psychiatry 64: 802-808, 2007
https://doi.org/10.1001/archpsyc.64.7.802